- プロデュース:宮田康史
- アレンジ&ストリングススコア:豊口健
- レコーディング:小竹直樹
参加ミュージシャン:豊口健(ピアノ)、伝法諭(ベース)、黒田佳広(パーカッション)
札幌交響楽団…荒木均(チェロ)、三原豊彦(ヴァイオリン)、竹内愛(ヴァイオリン)、荒木聖子(ヴィオラ)
1997年10月~11月録音 1998年2月1日発売
「ステレオ」誌1998年下半期ポピュラー/ジャズ部門優秀録音ベストテン入選作品
前作「BEWITCHED」から5年。あやこはララバイ・アルバムを企画する。「ロッカバイ」とは「ねんねんころり」といった意味である。ピアノ豊口健に編曲をゆだね札幌交響楽団弦楽カルテットと共演。今は亡き伝法諭入魂のベースプレーが聴ける。ジャズ・スタンダード曲をメインにキャロル・キング、イーグルス、ビートルズ曲が歌われ子守唄がちりばめられている。ララバイといいう形を借りた、あやこの音楽史的なアルバムでもある。
録音は前作と同じ芸術の森において、紅葉から初雪まで季節が劇的に変わる10月10日~11月9日の8日間を使って行なわれた。実はこの半月前まであやこは急病により1カ月の入院を余儀なくされておりレコーディングは延期されてもおかしくない状況であった。しかし機が熟した今しかこのアルバムを作る時はない、とのあやこの強い意志でレコーディングは強行された。録音当初あやこは椅子に座って歌っていたほどであるが、闘病生活で多くの人のやさしさに触れていたあやこの歌声はいつにもまして包容力があり温かく美しいものであった。
「ロッカバイ」比類なき録音の素晴らしさ ・・・ by 江藤信也
あやこさんとの出会いは「Rock A
Bye」から。stereoというオーディオ誌で録音評がたいへんな高評価を得ていました。録音評?と思われる向きもあるでしょうが、オーディオ・マニアはディスクの録音状態をすこぶる気にするものなのです。ジャケットの写真もいい雰囲気、オーディオ・マニアの勘が、買いだと囁きました。
さっそく、聴いてみると一曲目で鳥肌が立ちました。素晴らしい録音状態!
とそれに負けない音楽表現! 以来、女性ボーカルを好んで聴く私はあやこさんの虜となり、「Rock A Bye」は愛聴盤となったのです。
オーディオの歴史を少し紐解くと、1982年にCDが発売されたことにより、それまでのレコード再生につきまとっていた、ワウ・フラッター(回転ムラ)やスクラッチ・ノイズ等という問題から解放されました。しかし、夢の高音質媒体として、高音質が期待されたCDにも新たにオーディオ・マニアの頭を悩ませる問題が発生しました。それが「微弱音」を再生する際に発生する「量子化歪(量子化ノイズ)」です。
ごく簡単に説明しますと、アナログ音声をデジタル化する際には、CDの場合、音の高低を表す「周波数(F)レンジ」は20Hz~20kHz、音の大小を表す「ダイナミック(D)レンジ」は16ビットの規格で標本化(サンプリング)するのですが、A/D変換(レコーディング)、D/A変換(CD再生)で誤差が生じ、これが歪み(ノイズ)となります。
レコードやカセットテープ等のアナログは最大60dB(周波数によってDレンジが異なります)と言われたDレンジが、CDの場合、論理的には16ビットで、96dB(デシベル・対数表示されます)のDレンジをもつことになります。しかし、原理的に2進法で16ビットを表現した場合、実際の製品では-60dB以下の微弱音を正確に再生するのは至難の業でした。オシロスコープで正弦波を表示しても、-60dB以下はどんどん波形が崩れて行くのが分かります。なお、16ビット(フルビット)を使用した最大音は0dBとなります。そもそも、CD誕生当初は技術的未成熟(CD製作現場・再生プレーヤー共)のため、まともに再生できるのは-30~40dB程度でした。前宣伝が良すぎたためか、その落胆からか、不良品扱い・返品等が相当あったようです。
実際にはどのようなノイズ音がするのかというと、微弱音に付帯音として「じゅわじゅわ」「じゅるじゅる」「ザッザッ」というようなノイズとなって、表れます。ノイズ音の種類は厳密には再生するCDプレーヤーに搭載するD/Aコンバーターの種類によって異なります。また、当然元の音自体も原音とは異なる崩れた(汚れたような)音に成りがちです。
ただ、これがすべてのCD再生する場合に確認できるかというとそうでもないのです。多くの若者が好んで聴くガチャガチャした音楽ではDレンジ(最大音と最小音の差)が20~30dB程度でしょうから、微弱音など関係ありません。繊細な女性ボーカル・アタック音から消え入るような余韻まで表現するピアノ・その他管楽器等に纏わり付きやすい歪みです。また、再生するアンプ・スピーカーの能力、リスニングルームの暗騒音レベル等も関係してくると思います。要するに、マニアが優れた機器とそれなりの聴感覚で、優れたソフトを再生して音楽を楽しもうとすると気になるノイズ、と言えるかもしれません。例えると、食通がにおいの付いた食器で食事するかのようなもので、耐え難いわずらわしさを感じるものなのです。
冒頭の件。 初めて「Rock A Bye」を聴いたとき、1曲目にして全身に鳥肌が立ちました!
そうです、これまで私を悩ませ続けた「じゅわじゅわノイズ」(量子化ノイズ)が聴こえない! ひょっとして、これは世界初の「量子化ノイズ」を克服したCDなのか!?
思わず、即座にプリ・アンプのヴォリュームに右手を置き、スピーカーに耳を近づけ、慎重に確認しました。すると、ごく微かに聴こえるものの通常再生では殆ど気にならないレベル。いっきに、最後のあやこさんの「おやすみなさい」まで、陶酔・・・
「Rock A
Bye」をお聴きになる際に、お願いしたいことがひとつ。ぜひ、スピーカーを駆動する力の強い(パワーのある)アンプを使っていただきたいのです。レコーディングを担当された小竹さんの意図であったのかもしれませんが、「Rock
A
Bye」はこってりした絵の具で描いた油絵ではなく、繊細な素描、写実的な描写で音場を画いているかのようです。また、最近の録音に多い録音レベルを引き上げて、デジタルの最大録音レベル(0dB)を超えるビット・オーバー分はリミッターでカットしていると思われる最近のCDとは異なり、妙な圧迫感や違和感がありません。しかし、アンプに力がないと、ちょっと寂しい音になるかもしれません。余談ですが、最近の多くのCDの録音レベル設定の不自然さも気になっているところです。
ガーシュインで聴くあやこさんのライブはもちろん大好きなのですが、実はカウンターで横に並んだときに、ふと、あやこさんが何気なく曲を口ずさむとき、PAを通して聴く機械的な太い音にはない、艶めかしさを感じます・・・ 年に一度しかお逢いできない私の至福の瞬間です。この吐息のかかるような自然なナマっぽさが「Rock
A Bye」にはあるのです。
現在、進歩した録音技術により製作された、優秀録音盤も日々リリースされていますが、前記の量子化ノイズ(微弱音への付帯ノイズ)の少なさ、録音レベル設定の自然さでは「ロッカバイ」を超えるCDを未だ知りません。
音楽内容に加えて、音質的にも愛聴盤たる所以です。