Dream a little dream

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制作ノートより by宮田康史

2008年6月17日(火)札幌市南区芸術の森にある「芸森スタジオ」において、宮田あやこ10年ぶりのレコーディングは始まった。

芸森スタジオは「ファンハウス・スタジオ」として1993年に総工費12億円をかけ設立されたスタジオであるが、ファンハウスレコードがBMGに吸収されて後、2008年4月にライジングサンロックフェスティバルを主催している札幌のイベンターWESSが歌手松山千春氏と共同でこのスタジオを買い取り、運営会社SAVEを発足させた。地元音楽家にとって待望久しかった本格的スタジオである。

ビートルズのプロデューサーであったジョージ・マーチンが所有し、ポール・マッカートニー、スティング、ローリング・ストーンズが実際使用したというSSL4064E―64ch録音コンソールが設置されている。

しかし本作の録音エンジニア小竹直樹はSTUDER948 16chミキシングコンソール使用を選択、スタジオに持ち込んだ。ジョージ・マーティン氏のコンソールは録音メンバーのモニターヘッドフォーンのためのみに使われた。録音マスターにはプロ・ツールズを使用せず、前作同様DATに録音された。

曲目紹介

1. You do something to me

芸森スタジオでのレコーディングセッションは6月17日、18日、19日の三日間おこなわれた。このテイクは初日に録音されたものである。GERSHWINのライブでは3拍子で歌うことが多いこの曲を編曲豊口健はアルバム・トップにとあらかじめ構想し、ライブ感あふれるアップ・2・4ビートで演奏された。

あやこがこの曲のプレイバックを聴きながら遊びでハーモニーをつけていた。すごくいい感じで、アンドリューズ・シスターズ風の2声のあやこによるコーラスを加えたらどうかとひらめき、豊口健にスコアまで書きあげてもらった。残念ながら時間的制約で実現できなかったが、このアイデアは次回作にとっておこう。

2. Dream a little dream of me

あやこはローティーンの頃この曲をアメリカ西海岸のコーラスグループザ・ママス&パパスの歌で知る。1930年に書かれたこの曲をママス&パパスはカバーしたのだが、さらに約40年してあやこが歌ったわけだ。今回アルバム・タイトルを決めるにあたり様々なタイトルが浮かんだが、決め手にかけなかなか決まらなかった。そんな時ひらめいたのがこの曲。「of me」をカットした同名のタイトルが使用されていないか調べたところ、ママス&パパスのメンバーだったキャス・エリオットが彼女のソロアルバムのタイトルに「Dream a little dream」と名づけていたことが分かった。ママ・キャスと同名とは光栄なことである。ありがたくタイトルを戴いた。

3. I loves you Porgy

ジョージ・ガーシュウイン作曲のこの曲をあやこが歌い始めたのは今年になってからだ。

歌えば歌うほどに深い表現に達することの出来る曲だが、熟成途上で録音した。10年ぶりのCD録音、録音候補曲はあふれんばかりにあった。が、あやことの鮮度が保たれている曲を優先した。また次回アルバ候補曲もはずした。

加藤真一がアルコ(弓弾き)で大胆かつ感動的なプレーを最終テイク、アドリブで披露。この曲をより感動的なものに仕上げた。

4. It's all right with me

ここでも加藤真一のご機嫌なプレーが聴ける。彼の最新作はピアノのスガダイローとのデュオアルバム「ジャズ侍(2008)」であるが、そこではユニークかつ斬新な解釈のスタンダード曲が聴ける。しかし本作でのプレーはあやこの歌を尊重し見事にバッキングに徹し、同時にドラムレスを感じさせない素晴らしいグルーブを生み出した。彼にはあやこのたっての願いでハードスケジュールを縫って東京から参加してもらった。彼のベースは1927年ウイーンで作られたものだが、北海道の気候になじめばなじむほど素晴らしく鳴った。生まれ故郷と札幌の気候が似ているからか…。

5. Again

北海道小樽市出身で終戦後日本での人気絶頂期に渡米、ブロードウェイで主役を務めアカデミー賞助演女優賞を受賞したナンシー梅木の持ち歌としても知られる曲だ。作曲はライオネル・ニューマン。シンガー&ソングライターとしても知られる映画音楽家ランディ・ニューマンの叔父にあたりアメリカ映画音楽界の巨匠である。あやこは北海道の先達ナンシー梅木に対する敬意をずっと持ち続けていて、この曲はコンサートでも常に歌われる。

豊口健のピアノはもう一つのテイクのほうがより素晴らしいのだが、ここはヴォーカル優先。しかし豊口健ファン大喜びしそうな見事なプレーが聴ける

6. ‘S wonderful

今回のレコーディング幕開けに録音された曲。あやこは1927年ジョージ・ガーシュウィン作の曲をボサノヴァアレンジで歌った。あやこはスキャットを気持ちよく歌っている。ボサノヴァはあやこを歌へと向かわせたあやこの原点といっていい音楽である。

山本敏嗣のガット・ギターの音色が素晴らしい。彼は札幌光星高校クラシック・ギター部長であった。ボサノバユニット「ぽんぽち」ではブラジル音楽を追求している。インターネットから数千円で手に入れたという中古ガットギター。このギターを弾きこなしているところに彼のブラジル音楽にかける想いを感ずる。あと2曲彼のガットギターが聴けるはずだったが、残念ながら収録できなかった。

7. This boy

ジョン・レノン作曲。1963年「抱きしめたい」のB面で発表された。ジョンはメロディーメーカーとしてのポールへの賛辞を聞くたび俺にだって「THIS BOY」があると語っていたほどの自慢の曲だそうである。あやこのこの曲を聴いたら「なっ、だろう?」とジョンも納得してくれるだろう。

アルバム「Dream a little dream」編曲の豊口健に演奏陣は思いっきりスウィングを、と依頼した。そんななかであやこを舞いさせたかった。
しかし豊口健は原曲を尊重し、またあやこがあやこらしく歌えることを優先した。ここでは豊口健の弾くアコーディオンがメロディーの素晴らしさを浮き彫りにしている。

8. My old flame

豊口健のピアノ加藤真一のベースが素晴らしい世界を演出。あやこはそんな演奏にインスパイアされ情感たっぷりたおやかに歌っている。このレコーディングを機に、ますます表現を深めていく一曲となるであろう。

9. Don'cha go'way mad

加藤真一のベースが軽やかに力強く歌っている。間奏のベースソロ彼の吐息が演奏の充実度を物語っている。アルバム「Dream a little dream」では演奏者のうなり声、鼻息、足踏み、ピアノペダル音、あやこのブレス、リアルに収録されている。アナログミキシングコンソールSTUDER948を使用して、ミキサーの小竹氏が演奏のすべてを繊細に録った結果だが、こういう録音があってもいいと思う。加藤真一のベースにインスパイアされあやこはチャーミングに楽しんで歌っている。

10. Falling in love again

ドイツ語の奇妙でユーモラスな効果音から始まるこの曲はマレーヌ・ディートリッヒが初主演したドイツ映画「嘆きの天使」のなかで彼女自身が歌ったものである。「男なんて蛾のように私に群がってくる」と強がるこの曲をあやこは曲の主人公を慈しみ聴き手を大きく包み込むように歌った。そう、これは前作「ロッカ・バイ」の世界だ。こういう歌唱はあやこの十八番である。

11. I'm in the mood for love

本作は3日間で25曲録音された。アルバム収録時間50分程度の作品としたかったので、カットしなければならない曲が当然でる。実はこの曲も一時はカットしようと考えた。スローバラードは足りているし、しっとり、しっぽり歌うあやこのヴォーカルは情感豊かだが完成度には満足できなかった(2テイクしか録音されていない)。そこへこの曲はアルバムに必要な曲、と主張したのが豊口健。ゴッドファーザー健にはさからえない。採用となった。おかげでアルバムは構想より5分オーバーに…。

12. Love me do

本作にブルースを一曲入れたかった。あやこらしくソフィスティケイトされたブルースを。白羽の矢を立てたのがこの曲。言わずと知れたビートルズのデビュー曲。単調であまり評価のされていない曲ではあるが、曲はアレンジで生まれ変わる。

押さえに押さえたちょっとお色気のあやこを堪能していただきたい。
ウエス・モンゴメリーばりに親指弾きの山本敏嗣は天才肌の本当にかっこいいギタリストである。

13. The April Fools

映画「幸せはパリで(1969)」のエンディングに流れた曲。映画の舞台はニューヨークだが、幸せの地パリの街角に立つアコーディオン奏者の設定でイントロは豊口健が自らが演奏、自宅で録音編集した音源を使っている。あやこはバートバカラック/ハル・デビッド作品を数多く歌っているが、アルバム収録は初めてである。マレーヌ・ディートリッヒの伴奏を若くして勤めていたバカラックの曲とディートリッヒの曲を同じアルバムに並べられて光栄である。これぞアルバム作りの醍醐味。

14. I've got you under my skin

豊口健のカウントから始まるライブ感あふれるテイクである。本作であやこはコール・ポーター作品を5曲歌った(1曲はカット)。時代を経てもまったく色あせぬいつの時代にも通用する洗練された世界を持つ作曲・作詞家である。ポール・マッカートニーがもっとも敬愛する作曲家の一人でもある。

落ち着いた演奏のテイクもあったが、あえてアルバム終盤に相応しいテイクを選んだ。珍しく無防備な豊口健も最高でしょ?あやこはバラードシンガーとしての評価が定着しているけれど本作ではバラードを控えめに、スウイング感あふれる歌をあえて配した。

15. In the still of the night

これもコール・ポーター作品。あやこが豊口健のピアノだけで歌うことを望んだ。豊口健の素晴らしさはいろいろなところで語りつくされているのであえて記さないが、このアルバムは彼のピアノ/編曲がなかったらまったく別の作品になったであろう。

選び抜かれた音だけで紡がれる豊口健のピアノがこの上なく美しいこの曲、歌いだしてまだ間もない完成途上曲だが、この曲をアルバムからはずす気は当初からまったくなかった。あやこの想いがもっともこもった一曲である。

「Dream a little dream」には全15曲収録されているが、25曲が録音された。

アルバムコンセプトの都合上10曲を断腸の思いでカットした。どれもが素晴らしい楽曲、演奏であった。ここにその楽曲を記そう。

  1. So in love(Cole Porter)
  2. My favorite things(Oscar Hammerstein/ Richard Rodgers )
  3. You took advantage of me(Lorenz Hart/Richard Rodgers)
  4. Dindi(Louis Oliveila/Antonio Carlos Jobin)
  5. It might as well be spring(Oscar Hammerstein/ Richard Rodgers)
  6. What’ll I do(Irvin Berlin)
  7. These foolish things(Holt Marvel/Jack Strachey/Harry Link)
  8. The look of love(Hal David/Burt Bacharach)
  9. Love letters(Victor Young)
  10. The man I love(Ira&George Gershwin)

おいおい、もう1枚アルバム作れちゃうぞう!